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第9回 受け口の矯正時期

成長が影響 早期治療を

質 問
小学1年生の娘が学校健診で、歯科医師から「受け口」と言われました。矯正治療をしなければいけないのでしょうか。治療が必要なのはどのような場合で、いつごろ始めればよいのでしょうか。また、矯正治療は時間がかかると聞きますが、どれくらいの期間がかかりますか。


回 答
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徳島県歯科医師会
黒田 孝雄
第9回 受け口の矯正時期
成長が影響 早期治療を

一般に矯正治療を受ける必要があるかみ合わせを大きく分けると▽デコボコの歯(叢生)▽出っ歯(上顎前突)▽受け口(下顎前突)▽上下の前歯がかみ合わない(開校)の四つに分類されます。そのほかには「歯が生えてこない(埋伏)」「歯の本数が足りない(先天性欠損)」などもあります。br />
これらを放置すると▽食べ物がうまくかめずに胃腸障害を起こす▽顔が変形する▽歯周病になりやすい といった問題が問題か生じます。よって、早期に治療する必要があります。治療開始の時期は、症状に応じてさまざまです。ご質問のかみ合わせは下顎前突で、矯正治療の対象となる症状の中でも特に、成長や発育に大きな影響を及ぼします。できれば、3~5歳からでも治療を受けることが望まれます。

ただ、下顎前突の原因の一つに、舌小帯(舌の下にある靭帯)が短く、口を聞けた時に舌の先が上顎につけられない状態になっていることもあります。このような場合は早期に舌小帯の処置をして、舌を上げる訓練をする必要があります。

また、小学校入学前の乳歯のときなら、下顎前突が自然に正常な股合(かみ合わせ)になる場合もあります。乳前歯だけが反対咬合(下の歯が上の歯より前に出る)で、上下の乳犬歯(前から左右3番目の歯)が両側ともに正常にかんでいる場合です。前の乳歯は永久歯に生え変わるときに、上顎は乳歯より外側に、下顎は乳歯より内側に生えるからです。

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【上】下顎前突の患者(6歳10ヵ月)の歯【下】矯正治
療後(18歳9ヵ月)はきれいな歯並びになっている
顔面骨のうち、上あごを形成する上顎骨は、脳を囲んで保護している複数の板状の骨が、互いに縫合して形成されており、10歳前後で前方への発育はほとんど終了します。一方、下顎骨は、顔面を作る骨のうち唯一、関節を持った1本の管状の骨で、筋肉に支配され、手足の骨と同様に、筋肉の伸び縮みによって動くようにできています。出生してから成人するまでの間に、上顎骨が約5~6㍉前下方に発育するのに対し、下顎骨は約20~25㍉前下方に発育するといわれています。その発育は身長の伸びがピークとなる思春期にピークとなり、一般的に身長の伸び10㌢に対して、下顎骨は3㍉は伸びます。従って、身長の伸びが完全に止まるまで、つまり男子なら18~19歳、女子では16~17歳ころまで、経過観察が必要です。

以上のことから、ご質問の下顎前突に関しては、仮に成長発育過程である中学生の時点で、正常股合に改善されていても、油断はできません。治療が終了したと思い込んで放置してしまうと、高校卒業時にまた下顎前突になっていることが、しばしば見られます。

特に遺伝性のあるお子さんの場合は、成長が終了するまで観察が必要になります。

また、下顎前突で処置が遅れ、あごのズレが非常に大きくなってしまった症例では、矯正治療単独では治療が不可能となります。外科手術を併用しなければ治療できないこともありますので、あごのズレがあまり大きくない早期の段階で治療を開始して下さい。